2019年9月、山梨県道志村のキャンプ場で7歳の女児が行方不明になった事件。
2022年4月にキャンプ場から600メートルほどのところで「人の頭の骨と思われるもの」が発見されたことで捜索が進み、その後に遺留品や複数の骨が発見。
翌5月に鑑定結果が出て、残念ながら「女児死亡」で幕を閉じることになりました。
今回の事件で、
・骨から鑑定できる量の核DNAを抽出するのは難しい
・ヒトの細胞の中には核DNAの他に「ミトコンドリアDNA」がある
・ミトコンドリアDNAは母親から遺伝する
最初に発見された「人の頭の骨と思われるもの」は損傷が激しく、DNA鑑定で個人の特定ができなかったそうです。
人体の一部である骨があれば直ぐにDNA鑑定できると思っていましたが、骨から「鑑定できる量の核DNA」を抽出するのは難しいようです。
しかし、ミトコンドリアDNAの鑑定は可能だったようで、発見された「人の頭の骨と思われるもの」と「行方不明の女児の母親」との間に血縁関係があるとみて矛盾しないことが判明。
その後、発見された右肩甲骨から個人が特定できる核DNAの抽出に成功、行方不明の女児のDNA型と一致したそうです。
今回はミトコンドリアDNAについて。
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核DNAとミトコンドリアDNA
核DNAを分析すると個人を特定できますが、ミトコンドリアDNAを分析すると「血縁関係があるかどうか」が分かります。
核DNAとミトコンドリアDNAは全く別のもの
核とミトコンドリアはどちらも細胞の中にありますが、核DNAとミトコンドリアDNAは形状も塩基対数(長さ)も違います。
DNAは、例えるなら「生物の設計図」で、塩基対で書かれていると言えます。
塩基対が違えば「全く違うもの」が完成。
つまり、核DNAとミトコンドリアDNAは全く違うもの、「私たちの体の中にはミトコンドリアがいる」と言っても間違いではありません。
体の中にミトコンドリアがいる理由
理由は不明ですが、ミトコンドリアの祖先が細胞の中へ入り共生することになった「細胞内共生説」が有力だそうです。
何でヒトの体はミトコンドリアを拒否しなかったのか。
それは、ミトコンドリアがいることで効率のいいエネルギー代謝が可能になったからです。
ミトコンドリアは、有害な酸素を、細胞が利用するエネルギーに変換します。
血液が運んできた酸素がエネルギーになるのは、細胞にミトコンドリアがあるからです。
ミトコンドリアDNAが母親からしか遺伝しない理由
「DNAは両親から均等に遺伝する」、これは核DNAのことです。
「ミトコンドリアDNAは母親からしか遺伝しない」と言われています。
精子も卵子も細胞で出来ていますが、受精が起きると精子に含まれるミトコンドリアDNAが削除されてしまうからです(理由やプロセスは不明)。
同じようなことが線虫でも起きていますが、線虫の場合はオートファジーが関与して父親のミトコンドリアDNAを削除していると考えられています。
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核DNAとミトコンドリアDNAの用途
核DNAは自然消滅しやすい
核DNAは塩基対が30億、それに対してミトコンドリアDNAの塩基対は1.6万。
高機能な精密機器が壊れやすいように、核DNAは温度や湿度が高いと自然消滅しやすいです。
一方で、ミトコンドリアDNAは古くて量が少なくても鑑定できます。
核DNAが利用されるケース
数が多い核DNAの方が情報量が多く、精度も高いため、個人の特定に利用されます。
・出生前診断
・親子鑑定
・PCR検査
・犯罪の科学捜査
・遺伝子治療
ミトコンドリアDNAが利用されるケース
ミトコンドリアDNAは個人の特定はできず、ミトコンドリアDNAは活性酸素の影響を受けて、核DNAよりも突然変異(塩基置換)を起こしやすいと言われています。
精度が低いことから、ミトコンドリアDNAは研究に使われることが多いです。
・考古学(人類の進化に関する研究など)
・老化研究(ミトコンドリアの機能低下は身体エネルギー低下に直結)
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