市川海老蔵さんが2020年に歌舞伎の大名跡「團十郎」を襲名するニュースが日本を騒がせています。2020年は東京オリンピックの年で、團十郎襲名は相乗効果で社会に大きく影響を与えると予想されています。
「市川團十郎」は歌舞伎好きでなくても知っているビッグネームですが、「どうやったらこの名跡を継げるのか」とか知っていますか?
今回は「市川團十郎白猿」の襲名について、2019年1月15日(火)放送の羽鳥慎一モーニングショーの特集(解説:喜熨斗勝さん)をもとにまとめました。
市川團十郎は江戸時代から続く大名跡
現在の市川海老蔵さんが襲名する「市川團十郎」は江戸時代から続く歌舞伎の大名跡です。「命ある限り 懸命に歌舞伎に生きていきたい」と、人生100年のこの時代に未だ40代の歌舞伎役者が重い発言をしたのが印象的です。
海老蔵さんが十三代目市川團十郎白猿を襲名すると同時に、彼の息子の勧玄くんが八代目市川新之助を襲名します。近年の市川家では「新之助→海老蔵→團十郎」の流れで襲名しているようなので、勧玄くんもいずれは團十郎を継ぐのだろうと思われます。
市川團十郎白猿の襲名披露興行は2020年5月~7月に東京・歌舞伎座での公演を皮切りに、2021年11月まで開催される予定です。1年以上の襲名披露興行、興行収益は100億円とも見込まれています(先代は3ヶ月で30億円の興行収入)。興行を一手に担う松竹にとって、追悼興行と襲名披露興行は二大収入源と言われています。
俗っぽい私としては直ぐに金勘定をしてしまいますが、襲名とは「先代からの芸を守り発展させる意思表示」です。
今回襲名する市川團十郎は歌舞伎界トップに並ぶ大名跡です。
現在の歌舞伎界のトップクラスには「四代目坂田藤十郎」(現在87歳)、「七代目尾上菊五郎」(現在76歳)、「二代目松本白鸚」(現在76歳)、「二代目中村吉右衛門」(現在74歳)、「十五代目片岡仁左衛門」(現在74歳)の5名がいます(内、松本白鸚さんを除く4名は人間国宝!)。
團十郎を襲名するということは、このトップクラスの歌舞伎俳優に並ぶということになります(”彼らの上に立つ名跡”と言っても過言ではない)。
そもそも”市川團十郎家”は「江戸随市川」(江戸で一番の名門家)と呼ばれる家で、約300人の歌舞伎役者が30ほどの一門に分かれている歌舞伎界の中で頂点に立つ家なのです。
市川団十郎家は江戸歌舞伎の宗家
歌舞伎は1603年に京都で出雲大社の巫女「阿国」が男装して踊ったのが始まりとされ、この踊りをもっと演劇的にして江戸歌舞伎として発展させた1人が初代市川團十郎です。
初代市川團十郎は「荒事(あらごと)」を江戸で誕生させました。
荒事とは豪快で力強く正義のヒーローを演じる芸です。市川團十郎家特有の「にらみ」(不動明王の邪気を払う姿を見せる)は荒事の特長の1つです。「にらみ」を向けられると1年間無病息災で風邪をひかないとも言われています。
荒事の悪い奴をやっつける爽快さに江戸の人々は「成田屋!」喝采をあげ、市川團十郎は人気を博しました。
1714年に起きた絵島・生島事件で幕府は芝居を禁止しようとしましたが、二代目市川團十郎が各所に配慮を求めたことで芝居の禁止は回避されました。これをきっかけに市川團十郎家は「江戸歌舞伎の宗家」という立場を確立させたといわれています(諸説あり)。
市川團十郎の襲名は誰が決める?
名跡の襲名を決めるのは本人の意志の他に、松竹株式会社、諸先輩の内諾、関係者のすすめ、この3つです。特に、歌舞伎の興行を一手に担う松竹の決定は大切なようです。
「團十郎」の襲名は”年齢や技量が必要なレベルまで到達したらOK”というものではなく、歌舞伎界全体の総意が必要となります。全員が自分の意志を明確にしているわけではなく微妙にニュアンスが違ったりするので、現在はまだ”内諾”という形がとられています。
因みに、今回襲名するのは「團十郎”白猿”」です。白猿というのは俳号(俳句を詠むときの名前)ですが、今回襲名する名跡にわざわざ付けたのは”人間には劣る”という「猿」をつけることで、「未熟な身でありながら大名跡を襲名させていただく」という謙虚な気持ちが込められています。
松竹は歌舞伎の全興行を一手に担う
映画配給会社の松竹です。
歌舞伎の興行は大事なショービジネスで、採算をとり利益を上げることで役者さんの生活を保障する形になります。そのため、松竹は利益を上げるために襲名披露興行がベストなタイミングになるよう取り計らいます。
2020年に團十郎を復活させる狙いは、東京五輪の年に團十郎を復活させることでオリンピックとの相乗効果です。ビッグイベントを重ねることで国民も一層盛り上がると予想されています。
ちなみに、歌舞伎役者さんはほとんど松竹に所属しています。
給料(歌舞伎役者さんの場合は「出演料」等の名称に変わるが基本的な計算方法は給料と同じ)も毎月松竹から支払われるようです。
なぜ歌舞伎役者が松竹に所属しているかというと、松竹創業者の2人(松次郎さんと竹次郎さんの双子)が、1890年九代目市川團十郎の舞台に感激して家業の売店経営に加えて歌舞伎興行を始めたのが始まりです。彼らは1895年に松竹を創業し、京都・大阪・東京の劇場を買収し続け、1929年には歌舞伎興行の全てを一手に担うまでになりました。
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